AIについて浅く考える(11月16日の記事から)
対象:医薬品卸、製薬メーカー、薬剤師、医師
MSとしての私観の記事です。
11月16日付の医療業界紙RISFAXで、このような記事がありました。
"アストラゼネカ 治験計画書のAI翻訳開始「3週間が30秒に」"
要約:情報通信研究機構と共同開発した医療科学分野を対象とするAI翻訳を導入したことを明らかにした。例えばこれまで100〜150ページの治験計画書(プロトコル)文書を外注した場合3週間かかっていたが、AI翻訳では「30秒でできる」と説明する。etc
私は、この記事を読んで「3週間が30秒」って労力・時間・コストが抑えられて便利じゃん!
と単純に思いました。
ましてや、医薬品開発上での時間短縮は、良い薬が上市するまでにかかる時間の短縮に直結しますので、病気で苦しんでいる方々への利益にもなります。
早く、様々な企業に取り入れていただきたいと切望する一方で、この記事には「翻訳を外注する」とありますので、受注する側の企業は顧客を失うことになります。
そのような企業は事業転換を図っていかなければならないでしょう。まぁ、恐らく翻訳だけの事業ではないんでしょうけど。。
しかし、このように、AIの活用により人で賄っていた労働力をAIで代用することによる「省人化」、さらに「省委化」することができるので、人件費や、委託費の節減に繋げることは、経営者側としては大きな魅力です。
人間のように、労働時間の制限も無ければ、セクハラやパワハラなど従業員同士のトラブルも無い。
今の御時世、人を雇うのは、労働力の確保よりも、様々なトラブル発生のリスクに他なりません。
経営者としては、機械で補完できる仕事と、人による管理が必要な仕事で分け、後者の方に、重点的に雇用していくことでしょう。
では今後、医療業界にどのようにAIが活用されてくるのでしょうか。
既に始まっているとされているのは、製薬メーカーのオペレーターと言われています。
また今後期待されているのは、介護業界でのAI活用です。
被介護者の基礎疾患や身体機能データを元にケアプランを、瞬時にケアプランを作成することができると言われています。
人手不足が特に叫ばれる介護業界には、大きな助け舟になるのではないでしょうか。
その他の医療業界でも大きく期待されているAIの活用が盛んに話題になっています。
医師の診断
調剤薬局での膨大な薬剤情報管理・効率的な在庫管理
製薬メーカーの情報提供業務
医薬品卸の物流管理業務・情報提供業務
などなど、「人」で賄われている業務をAIで代用できると言われているのは周知の通りです。
私は、上記の中で「対患者」業務の多くはAIは補助的な役割となり、「対物」業務はAIに代用が進んでいくと考えます。
このことについては、また改めて記事にさせていただきたいと思います。
10月製品別売上高ランキング
対象:薬剤師の方、医師の方、製薬メーカー方、医薬品卸の方、医薬品業界に興味がある方、就職先が医薬品業界志望の方
※本記事は私が医薬品卸として仕事している中で感じている視点での見解によるものです。
データサービス会社エンサイス社が10月単月の国内医療用医薬品の製品別売上高を発表しました。
医薬品業界に勤めている者としては非常に興味深いランキングです。
学生や一般の方々にもわかりやすくお伝えすると、「医療用医薬品」とは、医師の診療に基づき処方された病院、診療所、調剤薬局で使用された医薬品を指します。
つまり、医師により処方される医薬品です。
この医薬品の薬価(公定価格)ベースでの売上高の集計によって出たランキングというわけです。
ランキングは以下の通りです。
3位:マヴィレット(抗ウィルス薬)アッヴィ
4位:リリカ(中枢神経用剤)ファイザー
5位:ネキシウム(消化性潰瘍剤)第一三共
6位:キイトルーダ(抗悪性腫瘍剤)MSD
7位:イグザレルト(血液凝固阻止剤)バイエル
8位:リクシアナ(血液凝固阻止剤)第一三共
9位:タケキャブ(消化性潰瘍剤)武田薬品
オンコロジー領域である抗悪性腫瘍剤、いわゆる抗ガン剤は存在感がズバ抜けています。
国民の死亡原因1位がガンであることは周知の事実ですから、必然的に処方例数が多く、高額な薬剤であることから、当然の結果です。
そしてプロトンポンプインヒビター(PPI)と呼ばれる消化性潰瘍剤のネキシウムに、タケキャブが追従しています。
用量調整が簡便で処方しやすい、といわれるネキシウムが今までダントツの売上高と言われてきた中で、タケキャブが着々と後につけてきているのがわかります。
医薬品卸は、従来の売上高至上主義のビジネススタイルを脱却し始め、無茶な数字の詰めをしない傾向にあることと、卸各社の9月半期決算明けの10月実績であることを踏まえると、自然の受注による純粋な売上高であると推定します。
それを踏まえると、今後もこの2剤の差は縮んでいく可能性があります。
DOACと呼ばれる血液凝固阻止剤のイグザレルトとリクシアナはさらにその差は肉薄しています。
高額で慢性疾患の薬剤であることから、バイエルと第一三共の屋台骨となっている両剤の競争は激化しています。
接待や、ノベルティグッズなどで差別化は今後さらにできませんので、単純にエビデンスや、ディテール数での競争になります。
医薬品卸も両社のMRさんと共闘し、医師に処方促進活動を繰り広げています。
D3製剤であるエディロールも、透析患者さんや、骨粗鬆症患者さんの多くに処方されています。
卸のMSの視点で見ると、いずれの薬剤もお得意先で帳合を獲得しているかいないかで、当該施設でのシェアの影響に直結する製品です。
また、このランキングを疾患別で見ると、トップ10の中で、3品目以外の7品目は、それぞれ競合品と共にランクインしています。
抗悪性腫瘍剤:アバスチン、オプジーボ、キイトルーダ(適応症の違い有)
消化性潰瘍剤:ネキシウム、タケキャブ
血液凝固阻止剤:イグザレルト、リクシアナ
これを見ると、その疾患の患者さんが多いかがわかる、ということと、違う視点から見ると、特に医療費がかけられている疾患、ということもわかりますね。
オプジーボは今月より薬価が下げられており、マヴィレットも2月より市場拡大再算定により臨時の薬価改定として25%引き下げられることも決まりました。
来年は消費税増税と共に薬価改定が行われる方向で決まっています。
上記の薬剤も大幅な薬価引き下げの対象になるものと考えられます。
個人的には、医療費の問題は深刻で、このままでは国民皆保険自体が崩壊してしまう懸念がありますが、良い薬剤を創薬した製薬会社が正当な利益を獲得し、それを原資にさらに画期的な薬剤の開発をする、このサイクルを維持できるようにしていただきたい。
新薬創出加算制度という制度も、その制度により薬価引き下げを阻止できる品目も激減しています。
医薬品卸としては、今後薬剤の値付けについて過度な競争による安易な値付けをするのではなく、薬剤の価値に見合った価格決定の為の交渉をしていかなければなりません。
しかし、それは購入側からすると、薬価差益の圧縮にも繋がります。
薬価差益は、購入側にとっても重要な利益であり、経営資源であることから、流通側の事情を一方的に押し付けるわけにもいきません。
ただ事実として、製薬メーカーから卸への仕切価は確実に上がっており、アロワンスや割り戻しなどの不透明な利益も、流通改善の一環として是正が求められていることから、安易な値引きができない状況です。
そのような環境下でも、製薬側、流通側、購入側のそれぞれが正当な利益を得られるように、努力することが、今後の重要な課題です。
お目を通していただきありがとうございました。
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また今回もダラダラ書いてしまいました。
就労管理が厳しく、早い時間に会社を出されてしまうので、書く時間ができるのはいいけど、もっと簡潔にまとめられるようにします。
あっ、薬剤の詳しい情報は、薬剤師の方々のブログに大変わかりやすく解説されていますので、ググッてみてください。
インフルエンザワクチンについて
対象:
医師、コメディカルの方々、製薬会社MR、医薬品卸MS、医療業界に興味がある人、医療業界志望の方
今年も製薬メーカーから入荷するインフルエンザワクチンが、9月末より流通しています。
昨シーズンは、製造株変更に伴う製造→検定→出荷の流れが大きくズレ込んだ為、製薬メーカー、医薬品卸、医療機関で大変な混乱が見られました。
偏在を避ける為に、厚生労働省が異例の通達を出すまでに至りました。
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000177816.pdf
ここには、ワクチンの大量購入は、偏在を招き安定供給に支障をきたすことに言及し、
文書の(8)には
「接種シーズン終盤にワクチンを返品した医療機関等の名称について、公表することがあること」
と明確に記載しています。
ワクチンは、製造から市場に流通するまで多大な時間と労力がかかっています。
原液製造
↓
充填
↓
自家試験
↓
国家検定
↓
合格
↓
包装
↓
出荷
↓
流通(医薬品卸)
↓
この過程は、早ければ10ヶ月、かかるもの2年を要します。
したがって、市場の急激な需要の変化に対応することができない製剤なのです。
ワクチンについてはまた別記事で扱いたいと思いますので、インフルエンザワクチンに話を戻します。
インフルエンザワクチンの接種について、各自治体は高齢者助成を実施しています。
自治体によって時期が異なり、早いところは10月1日からの地域と、10月半ばくらいからの助成開始が多いようです。
その時期から、接種希望者が次第に増え、ピークは11月中旬頃となります。
接種による効果は、2週間後から3ヶ月と言われていますが、5ヶ月という話もあるようです。
したがって、例年の流行期12月〜2月末くらいまでの間にワクチンの効果を期待するのであれば、接種のピークは妥当な時期と言えます。
インフルエンザワクチン自体に懐疑的な意見を医師が発信しているケースもありますが、インフルエンザワクチンを接種することで、
発症リスクの低減
発症時の重症化・合併症予防
に充分寄与していることから、接種を推奨する医療機関がほとんどです。
では、皆接種したら良いじゃない、となりますが、
基本的に自費での接種です。
そして
流通する数には限りがあります。
ですので、医療機関との納入に関わる交渉が頻繁に行われるこの時期、自院のことだけでなく、地域の流通ついて理解をいただいた上で、当該医薬品卸とご相談いただけますと助かります。
昨シーズンと比べて、今シーズンはインフルエンザワクチンの数、流通は安心できると思っていましたが、実際蓋を開けるととんでもない、現場は一部混乱しています。
背景には、介護施設や高齢者住宅など、施設利用者の集団接種が毎年増加していることが起因しているようです。
今まで、インフルエンザワクチンなんて打ったことがないし、インフルエンザにすらなったことがない、なんていう元気な高齢者が施設に入所されると、施設内の流行・感染リスクを低減する為に接種を勧められる、という流れがあるようです。
インフルエンザワクチンは、前年実績に基づき製造・流通していますから、そのような動きがあちこちで始まると到底足りません。
民間に任せるのではなく、国が製造から数量のヒアリングまでしっかり関与して、必要な患者さんに行き届くようにしていただきたいものです。
ワクチンについては、言いたいことが山ほどありますので、今回はここで終わらせていただきます。
お目を通していただきありがとうございました。
医薬品業界の現状を確認
対象:
医療業界で勤める・志望している方、製薬メーカーの方、医薬品卸の方、調剤薬局経営者の方、薬剤師の方、医師、医療業界に興味がある方
本記事では医薬品業界の現状を私個人の観点で記しています。
医療業界の、とりわけ医薬品を取り巻く環境が劇的に変化しています。
いわゆるパラダイムシフトの真っ只中にいるのです。
その為、医薬品業界各社は、今後の方針について大きな舵取りが必要とされています。
なぜか?
要因は大きく3点あります。
①社会保障費が限界
②世間の潮流(ルールの厳格化)
③医薬品流通のカテゴリーに変化
①年金・医療・介護から構成される社会保障費は、少子高齢化に伴う人口動態の変化と、スペシャリティ医薬品の増加による医療費の急激な増加に対して、医療に充てる税収や保険料では賄いきれず、限界の状況が続いています。
ですから、「薬価改定」「診療・調剤報酬改定」による適正化(値下げ)で、社会保障費の医療の部分を抑えようとしています。
(別記事で改めて解説します。)
②世間の潮流とは「働き方改革」、「プロモーションコードの厳格化」です。
昨今の報道でもある通り、過重労働による自殺者が出る悲しい事件が今でも発生しています。企業は、従業員の就業時間の管理不徹底に着目され、「ブラック企業」という言葉で揶揄されるようになりました。
医薬品業界各社も多分に漏れず、「働き方改革」の大号令の下、厳格に就労管理がなされるようになってきました。
医薬品業界の営業は、主に医師、看護師、技師、薬剤師などの有国家資格者を対象に営業を展開しますが、当然先方の都合に合わせた時間に訪問をしなければなりません。
労働基準法に則った就労時間や有給休暇の取得を進めていくと必然的に、それ以前と比べ、仕事量や仕事の仕方を見直していかなければならなくなります。
いわゆる「効率化」です。
「効率化」はとても良い響きのように感じますが、現場ではサービスの低下を懸念する声が多くなりました。
さらにそこに追い打ちをかけるように、「プロモーションコードの厳格化」が進められてくるようになりました。
以前より製薬メーカーによる接待は禁止されていましたが、例えば講演会後の演者の先生との会食も規制対象として検討され、訪問時の面談の潤滑油として活躍していたノベルティグッズ(販促品、サービス品)配布も2019年1月より全面的に禁止になるそうです。
説明会時のお弁当についても、規制の対象として検討されているようです。
時間とモノが極めて限定的になったのです。
③医薬品流通のカテゴリーに変化が起きています。
大きな変化は2点です。
1:先発医薬品(長期収載品)→後発品医薬品
2:スペシャリティー医薬品の上市
1:①で触れましたが、「診療・調剤報酬改定」の中で後発品使用に対する評価がなされるようになりました。
・後発品使用体制についての点数化
・一般名処方加算
それに加え、2018年10月より生活保護患者の後発薬使用の原則化が始まりました。
それらにより、特許の切れた先発医薬品(長期収載品)から後発医薬品への切り替えが進んだことで、
新薬が出せる製薬メーカー
新薬が出せない製薬メーカー
新薬流通を担える卸
新薬流通を担えない卸
これで、大きく収益格差が生まれてきています。
(こちらも別記事で触れます。)
2:スペシャリティー医薬品が次々と上市しています。
今まで治すことができなかった・治療薬の無かった疾患に、画期的な薬剤が開発され、厚生労働省により承認され、発売になりました。
象徴的なものとして、
C型肝炎薬のマヴィレット、ハーボニー他
が挙げられます。
寛解や、劇的な改善、延命ができるようになり、患者、家族のQOL(生活の質)向上に大きく寄与しています。
問題点は、それと引き換えに発生する薬代です。
例えば、C型肝炎治療薬の
マヴィレット配合錠(1日1回3錠)は
1錠 ¥24,180-
1箱(42錠) ¥1,015,568-
1人当たりの治療完結までの薬剤費
8週間服薬の方 ¥4,062,273-
12週間服薬の方 ¥6,093,410-
となります。
高いと感じるかもしれませんが、従来の治療は長い治療期間と、患者さん自身の精神的、肉体的苦痛が伴うものでした。
注射剤と経口剤での治療で、副作用も多く、効かない患者さんも多かったので、このマヴィレットやハーボニーのような経口剤のみの服用で、ウィルスの体内除去が飛躍的に成功し、治すことができるようになりました。
このように、今までの治療を一変させるくらいの画期的な薬剤を「スペシャリティ医薬品」
そして、そのスペシャリティ医薬品は
別名「超高額医薬品」
と言われています。
さらに米国で承認され、本国でも「CAR-T細胞医療」の医薬品として承認を見通されている2種類の白血病治療薬「キムリア」は、オーダーメイド医薬品と言われ、薬価が約5,000万円になるのではないか、と言われています。
あまりにも高額な為、米国では効果が認められた場合に請求する「成功報酬型」の価格制度を取っています。
かなり話が脱線してしまいましたが、国の政策の意向や、医療の進歩により、流通上から医薬品カテゴリーの変化が見てとれるようになりました。
ここまでお話ししたことから、
①社会保障費が限界
→公定価格である医薬品の値段(薬価)の引き下げ、国の政策意向による後発医薬品使用推進で、製薬メーカー、医薬品卸の収益が大幅に低下する。
②世間の潮流(ルールの厳格化)
→時間とモノが、極めて限定的になることから、販売推進機会が減少している。
③医薬品流通のカテゴリーに変化
→医薬品メーカーは、新薬を出せるか、新薬が出せないか、医薬品卸は新薬流通を担えるか、取り扱いすらできない卸か、これで収益格差が出てきます。
以上のことが、医薬品業界各社は、今後の方針・展開の舵取りが必要とされている所以です。
武田薬品が、シャイアー社を7兆円で買収を、進めていることが、この舵取りのひとつです。
医薬品業界のこのような現状を背景に、私たち医薬品卸のMSや製薬メーカーMRが、どのような活動をしていけば、今後の活路を見いだすことができるか。
そのようなことを今後記していく為に、今の自分たちの立ち位置をざっくりと確認致しました。
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こんなに長く書くつもりはありませんでした。
こんなボリュームで書いていったら、細く長く続けられません。
気楽に続ける為に、もっと軽い内容で続けていきたいと思います。
お目を通していただきありがとうございました。
ブログ開設にあたり
私は、医薬品卸に入社し14年間MSとしてお仕事を続けてきました。
その間、結婚し子どもにも恵まれ、家族5人なんとか元気で健康に過ごせています。
そんな生活の中で、思ったり感じたりしたことを綴っていきたいと思い、ブログの開設に至りました。
目下、医薬品業界は激動の時代の真っ只中で、著しい環境の変化にさらされています。
ですので、仕事に関する内容の更新を主にしたブログにしていきたいと考えていますが、雑記的なものも差し込でいくつもりです。
細く長く続けていければいいな、という気持ちで始めました。
お付き合いいただけますと嬉しいです。