激動の医薬品業界について考える

MS歴14年選手の現場観ブログ

医療用医薬品の併売について

対象:MSの方、MRの方、薬剤師の方、医薬品業界に興味がある方

※11月29日追記致しました。

本記事は、医薬品卸MSとして勤めている中で感じた"私観"を元にしています。

 

今月(2018年11月)も医薬品の新製品が上市されています。

ここ最近は、オンコロジー領域、スペシャリティ医薬品の発売が多い中、今月末にプライマリー領域にあたる製品の中で、

慢性便秘症治療剤「モビコール」

過活動膀胱治療剤「ベオーバ」

の2剤が発売になります。

 

特筆すべきは、両剤ともに「併売」という販売形態を取っていることです。

本記事は「併売」という販売形態について書き記していきます。

(コ・プロモーションについては長くなるので触れません)

 

今回発売の2製品について、併売各社は以下の位置づけとなっています。

 

モビコール

製造販売元:EAファーマ

http://www.eapharma.co.jp/medicalexpert/ethical/ViewDoc.asp?Func=1&Sequence=2074

販売元:持田製薬

http://www.mochida.co.jp/dis/etc/img/mvc3011_2.pdf

 

ベオーバ

製薬販売元:杏林製薬

http://www.kyorin-pharm.co.jp/news/565c6da62360f4f3b679dc14855ec6e52b700de6.pdf

販売元:キッセイ薬品工業

https://www.kissei.co.jp/news/uploaded/ecc85b99297aa5bef0e59c13eba7d524_1.pdf

 

それぞれが、どういう経緯で、どういう契約の下で決められるかは、製薬メーカー側のことなのでわかりかねますが、

言えることは

 

利益率低下の引き換えに、早期拡大化を得ること

 

これが絶対命題ということです。

 

特許期間中にしっかり売り抜くことができなければ、特許期間終了後、後発品に置き換わってしまうからです。

 

では、併売品が発売されることで、流通から患者さんにどのような影響があるのでしょうか。

医薬品卸調剤薬局患者さんの3つに分けて考えてみます。

 

<医薬品卸>

①両メーカーの在庫スペースの確保。

②得意先にどちらのメーカー品を販売するかの管理。

③他卸・別メーカーの動向注視。

④両メーカーの施策取組。

 

①は、単純に在庫スペースの問題です。しかし卸にとっては重要な問題です。

両社の製品を取り扱う場合に、お得意先が指定する製品を揃えなければならない為、同じ医薬品にも関わらず倍のスペースが必要になります。

物流センター、各営業所同様です。

もし注文をいただいた時に在庫が無ければ、商機を逃すことになるからです。

これ、実は後発品収載の時は、もっと深刻になります。

 

②卸は製薬メーカーさんが活動して下さった先に、そのメーカー品を納めます。(追記:お得意先に選んでいただくことが大前提です。)

受注時に、違うメーカーさんのもので起伝しないようにする管理をします。

 

③併売メーカー同士の関係にもよりますが、ある程度大口先になって、両メーカーが活動しているお得意先の場合、チャンスがあれば切り替えてもらうように画策することがあります。

当然帳合卸は既存メーカーさんを守りますから、別メーカーは他卸と共闘し、切り替え工作します。

したがって、それまで頑張って下さっているメーカーさんを守る意味でも、自社の帳合を守る意味でも、他業者の動向に注視する必要があります。

 

④両社の製品を取り扱う上で、発売時、決算時などに取り組む施策は、当然メーカー品毎に販売額、販売軒数のノルマが課せられます。卸MSとしては、両社の製品の帳合先を確保しなければなりません。

 

以上のように、医薬品卸側は併売にあたり上記の点に注意して活動を致します。

 

そして、MSとして最も重要なことはMRさんがどこでどういった動きをしているか、できる限り把した上で活動すべきです。

MSにとっては、多くのメーカーさんを取り扱う中の1製品に過ぎませんが、製薬メーカーMRさんにとっては、そのメーカーの最重点製品で、1番想いが込められていて、それに全てをかけて活動しています。

それを身近でわかっている卸だからこそ、お得意先にしっかり活動を伝えて、理解をいただいた上で、スムーズに導入ができるようにする、そのような活動が併売品を販売する上で重要です。

 

<調剤薬局>

①在庫増に繋がるので、間違っても両メーカーを採用しないようにする。

②オンライン発注時のコード等の間違いがないように管理する。

③止むを得ず、既存メーカーと別の製品を仕入れた際に、包装が違うことに反発する患者さんに説明する。

④採用メーカー品による価格差

 

①併売の新製品が出る時には、両メーカーMRさんが調剤薬局さんに訪問し、医師の処方意向や、製剤の説明会、指導せんの配布など、熱心に活動します。

しかし、1規格しかない製品をわざわざ両社製品を揃える薬局さんはないでしょう。

その分、在庫になるからです。

 

②現在、多くの調剤薬局さんは発注機能と連動している在庫管理システムを採用しているところが多いです。

初回発注時に注文したいメーカー品のJANコードを、誤って別メーカー品で送らないように注意する必要があります。

実際に現場で起きて、実績が一時的に残る為、MRさんもぬか喜びしてしまう、なんてことも起きてしまいます。 

それ以外にも、監査機器などの調剤機器もJANコードやGS1コードで識別しますので、十分注意した管理が必要です。

 

③併売品の多くは、外箱包装、PTPシート、分包デザイン、などがメーカー別で異なることが多いです。

非常に近似しているケースもあれば、全く異なることがあります。

止むを得ず、別メーカー品を調剤する際に、いつもと違うデザインのものを患者さんに渡すと、「いつもと違う」と訴える方がいるようです。

毎日服薬するもので、ましてや多剤服用されている方は、デザインが変わることに対して抵抗があるようです。

薬剤師さんは、患者さんに納得していただくように説明をしなければならなく、大変な手間暇がかかります。

なるべく、そういったことが起きないように注意しなければなりません。

 

④採用メーカー品の価格差ですが、以前は卸を交えた価格競争が激しく行われていました。しかし、今般、無用な薬価下落を防ぐ為、過度な価格競争は原則行いません。

そういったことや、活動効率を上げる為にキャパシティが大きいお得意先などは、両社協議の上、どちらのメーカーさんが活動をするかを予め決めていることがほとんどです。

 

以上のように、調剤薬局さんは必要以上に在庫品目数を増やすことはしませんし、よりスムーズに調剤する為の環境作りを日々行っています。

両社が熱心に通うということは、情報提供量が多いかもしれませんが、それだけ薬剤師さんの時間を奪っている、ということも認識しなければなりません。

調剤薬局への過剰な宣伝活動は、逆に迷惑行為になるということです。

 

<患者さん>

①いつも服用している薬剤のデザインが変わってしまうことが起こり得ます。

 

患者さんへの影響は、包装デザインの違いによるものです。

患者さんも、本当に色々な方がいらっしゃるようで、ちょっとした違いにも敏感な方がいたり、そういった違いを見つけては薬剤師さんに食い下がることがあります。

確かに、医療業界をご存知ない方にとって、同じ製品名なのに、なんでデザインが違うの?と思うのは当然のことかもしれません。

また服薬の管理をしているのは、患者さん本人とは限りません。

ご家族や、介護者などが関わる為、「極力変化がないようにしたい」という思いは十分理解できます。

 

以上のように、同一医薬品の併売は、プロモーション段階から、最終ユーザーである患者さんまでにも様々な影響があります。

良い薬剤を、1人でも多くの方のQOL向上に役立てる為に拡大化していく一方で、本記事のようなこともある、ということを念頭に日々の活動に勤しみたいものです。

 

冒頭に紹介したモビコール、ベオーバも各社で外箱、PTPシート、分包デザインもメーカー名記載の部分が若干異なります。

 

医療機関さんに丁寧に案内をしていきながら、広めていけたらと思います。

 

長くなりましたが、記事を書きながら、今までいろいろな製品の併売間競争があったことを思い出しました。

メーカーさんは価格に関与できませんから、卸同士の代理戦争が起こることもしばしばでした。

今思えば懐かしく思います。。

 

今年も残すところ1ヶ月あまり。

宣伝、拡販頑張ります!

皆さまもお身体をご自愛の上、年末の繁忙期を乗り越えてください!

 

お目を通していただきありがとうございました。