激動の医薬品業界について考える

MS歴14年選手の現場観ブログ

もうすぐ後発品薬価収載しますね。

対象:調剤薬局でお勤めの方、薬剤師の方、MRの方、MSの方、 医薬品業界に興味がある方etc

 

今年も残すところ、あと1カ月を切りました。
あっという間に12月ですね。


12月といえば、 我々医薬品卸のMSは他の業界の方々と同様1年で最も多忙な1カ 月になります。


以前は、と言っても10年近く前は、繁忙期の通常業務に加え、 医療機関の大掃除や、忘年会の企画・運営・進行などの活動で、 MS・MRさん共に超多忙でした。


しかし、製薬メーカーのプロモーションコード改正や、 卸公取協の公正競争規約に便益労務の禁止が盛り込まれてからは、 上記のような活動が極端に制限されるようになりました。


結果、12月は時間にゆとりが持てるようになるかと思いきや、 ちょうど同じ時期から別のことで忙殺される業務が増えました。


そうです。


後発医薬品の薬価収載及び発売です。
新規後発医薬品の上市に伴い、 製薬メーカーと医薬品卸による拡販活動が激化することで、 より一層忙しくなっていくのです。


本記事では、


①後発品新発売に伴う製薬メーカー・医薬品卸の活動の裏側


医療機関がどのように採用品を決められているか


③メーカー選定の提案


この3点について、MSである私の私観を基に書き記します。( バイオシミラーは除きます)

 


①製薬メーカー・医薬品卸の活動の裏側  

【AGビジネス】
後発医薬品の薬価収載は2011年4月より


年2回(6月・12月)


厚生労働省により定められています。


基本的には

 

薬価収載=発売


となることが多いですが、必ずしもそうとは限りません。
オーソライズジェネリック(AG) は他社に先駆けて承認を得て、 他社製品が発売する直前まで発売しない手法を取ります。
AGを販売するメーカーは、 先発医薬品メーカーの子会社や特別な契約関係の上にある為、 先発医薬品での販売期間内の最販売額を最大限に確保し、 他社の後発医薬品よりも先にAGを発売し、いち早く採用させることで、 利益の流出を防ぎます。
(AGについてはこちらに詳しく説明されています。→https ://www.daiichisankyo-ep.co.jp/ ag/)


直近で、この戦略により顕著に結果が表れたのは、


モンテルカスト(シングレア・キプレス
オルメサルタン(オルメテック)
ロスバスタチン(クレストール)

テルミサルタン(ミカルディス)


でしょう。


また、他社が発売した後にAGを発売するケースもあります。
AGを優先採用する医療機関では切り替えが進み、 一定のシェアを獲得することができます。


直近では、


ランソプラゾールOD錠(タケプロンOD)
フェノフィブラート(リピディル・トライコア)
レバミピド錠(ムコスタ


が挙げられます。


このような手法は「AGビジネス」と呼ばれ、 後発品専売メーカーの脅威になっています。

 

原薬・添加物及び製法などが新薬と同一であるAGの方が、 そうでない他社の後発品と比べると、切り替える上で処方医・ 患者さん・患者さん家族含めた方々に理解を得られやすい為、 非常に高いシェアを占めるようになってきています。
(AGはすべての後発品成分にあるわけではありません。)  

 

AGは採用率が高く、市場への影響が大きいことから、 医薬品卸各社もAGへ強く力を注ぎます
実際にAGメーカーも卸への軒数施策などを実施することで、 拡販体制を強化します。


今回収載予定のものでも


ルナベル配合錠ULD
ユリーフ錠(発売時期未定)
イレッサ


のAGが上市する予定です。
どのように拡大をしていくかが注目されます。

 


【ブランド戦略】
そのようなAGビジネスが展開されていく中で、AGでは無いが、 非常に高い採用率を得ているのがこの「ブランド戦略」です。


芸能人を起用したCMを多く打ってブランド力をつけているのが、

沢井製薬

二プロ

日医工

東和薬品

です。


また有名先発メーカーも後発品ビジネスに積極的ですので、 そういったメーカーさんの「ブランド力」は高いでしょう。


患者さん・患者さん家族も耳なじみの無い製薬メーカーではなく、 聞いたことがある製薬メーカーだと安心感が生まれる点と、
何より後発品専売メーカーとしての会社規模が大きく供給力が高い ことが、医療機関調剤薬局の安心感を生み出す為、 採用が進む傾向があります。


【独自の工夫で展開】
AGではないが、 他社にない工夫を凝らして発売する製薬メーカーも多くあります。


・先発品に無い剤型(OD錠剤・フィルム剤・ ドライシロップなど)
・服薬しやすい味(液剤・粉製剤)
・PTPシートの工夫
・錠剤印字の工夫
・外箱の工夫etc


以上のように、患者さんだけでなく、 調剤する薬剤師さんにもメリットを提示し採用を目指します。


【ターゲットを絞った活動】
AGではない
特段の特色がない

こういった後発品を販売するMRさんは、 ターゲットを絞り活動を致します。
主に、 その製薬メーカーと得意先の関係が特別良好な関係の先が該当しま す。
そういった先には、日頃の定期訪問に加え
製造承認後すぐに購入権限を持つ経営者・ 管理薬剤師に製品案内し、
薬剤とその病態についての説明会を実施します。
当然ライバルメーカーも活動しますから、定期訪問を欠かさずに、 卸MSの協力を得ながら情報収集をします。
製薬メーカーは価格交渉に関与できませんので、 卸MSに価格交渉を委ねます。
それらのすべてをクリアすることで採用に至るということが多くあ ります。


価格戦略
AGではない
特段の製剤特色がない
そのような製品でも、とにかく安い製品があります。
卸への仕入価を下げて、 お得意先に安価で提供することで採用を増やす戦略をとる製薬メー カーもあります。


【卸を使った戦略】
医薬品卸は自社推奨メーカーを選定しています。  

推奨メーカーは、卸へ軒数施策やグロス(数字) 施策を打つことで採用を増やす戦略を取ります。
そうすることで、 発売前の活動もMRさんだけでなくMSの協力を得てマンパワーを 確保でき、
卸営業所にも優先的に在庫が置かれます。
したがって、 該当メーカーの後発品拡販には大きく寄与しているのではないかと 考えます。


また突発的な採用の際に、 医療機関からどこのメーカーさんの製品を採用するか相談を受ける ことが多々あります。
その時には、推奨メーカーを提案します。


ある時は、 電話で注文を受ける際にも同様の相談を受けることがあります。


例えば


薬局「この前出た後発品の○○ が急遽今日中に必要なんだけど在庫ある??」


卸事務員「メーカー様のご指定はありますか??」


薬局「急いでいるから在庫あるならどこでもいいよ!」


卸事務員「では●●社のものでしたら在庫があり、 本日のお届けが可能です。」


薬局「じゃあそれ持ってきて!」


というやりとりが、実は多くあります。
MSだけではなく、 上記の場合など卸の事務員が提案することもあるのです。
在庫があるのは、推奨メーカーであることが多いですので、 こういった形でも採用が増えていきます。


いかがだったでしょうか?
後発医薬品収載及び発売に伴い、 製薬メーカーと医薬品卸はこのような活動がなされています。
製造から流通までの過程で様々な交渉が行われ、


会社 - 会社


MR - MS


それぞれでも打ち合わせをした上で、
医療機関への営業活動をしていくのです。


では


医療機関側はどのようにして採用品を決めるのでしょうか。


答えは100軒あれば100通りだと思いますが、
下記のように大別できると思います。


1:AGを優先
2:製品特徴を比較して決める(PTPシートや味etc)
3:価格(数メーカーを選抜した上で)
4:活動を評価して決める
5:供給体制重視


1:AG優先
現在AGを優先して採用する医療機関が多いです。
先にも触れましたが、製品の信頼性の高さに加え、 処方医や患者さん、 患者さん家族にも切り替えの同意を得られやすいからです。
後発品体制加算を算定している・ 算定を目指す医療機関でも多く見受けられます。( 大手グループ調剤は除き)


2:製品特長を比較して決める。
採用する医療機関は、製薬メーカー製品の特長を比較します。


例えばPTPシート


A薬局
先発品に似たPTPシートが良い
→患者さんが普段飲み慣れているものに近い方が良いから


B薬局
先発品と似てないPTPシートが良い
→調剤ミスを誘発しやすい


などがあります。
それぞれの現場で調剤するにあたり、 最も適したものを選定して採用します。


3:価格
安ければどこでもいいよ、 なんていう医療機関はほとんどありません。
しかし、2と重複しますが、 ある程度採用しても良いという製品を2~3社選定し、
卸の提示する価格が最も安価だった製品を採用する、 という形があります。
非常に合理的な採用方法です。


4:活動の評価で決める
MRさんもMSもルートセールスです。
熱心に活動してくれる業者のものを採用してあげたい、 という人情で選んでいただくことが今でも多くあります。


その中でもパターンはいくつかあります。
例えば


MRさんを評価している場合
「○○MRさんの製品採用してあげるけど、どこの卸がいいの?」


MSを評価している場合
「○○MSさんの好きなメーカーさんでいいよ、 その代わりちゃんと在庫してね」


などがあります。


5:供給体制重視
最も重要視するのがこの点です。
どこの製薬メーカーも安定供給に努めていますが、 結果として先に挙げた「ブランド戦略」、卸の「推奨メーカー」 に挙げられる製薬メーカーさんの供給体制が強いと評価されること が多いです。


安定供給とは、

いつ発注しても当日納品、 遅くても翌朝には納品される

ということです。
取り寄せで発注から納品まで数日かかるものを積極的には採用しな いでしょう。

 


大まかに分けてしまいましたが、 医療機関側が後発品を採用するに際し上記5点をそれぞれ考慮して います。
医療機関も多くが民間企業ですから、 利益を出すことも大切である一方で、 患者さんといつも直接向き合う現場です。


「価格」と「安定供給」が選定のベースになることは間違いありません。

 


では、


医療機関側に販売する卸の立場として後発品メーカーさん選定の提案を致します。
(製品特長の違いは考慮しない場合)


❶:安定供給ができる卸推奨メーカー
❷:AG
以上です。


❶先にも触れました通り、卸は自社推奨品を販売したい為、 物流センター・営業所に在庫します。
受注後すぐに届けられなければ、商機を逃すことになるからです。
また、ライバル卸との価格の競争も生まれますので、 結果として安価で仕入れることもできます。
「価格」「安定供給」の両方を得ることができます。
頑張ってくれているメーカーさんを採用しようとしても、 推奨メーカーさんじゃない場合は、在庫するようにはしますが、 倉庫のスペースには限りがありますので、卸としては

「 かなりきつい」

というのが本音です。
そんな本音は言わないでしょうけれども(笑)

 

後発品採用の際には、

お付き合いのあるMSの推奨メーカー

を是非お尋ねいただければと思います。


AGは、まず卸の営業所に在庫されています。
卸間の競争が激しいからです。
製品の「信頼性」「安定供給」を得ることができますが、 価格はあまり安価にしづらいものが多いです。
AGという「製品の価値」があるからです。


患者さんのコンプライアンス第一で考え、 製品の特長で選定することも多いでしょう。


少しでも参考になれば嬉しく思います。


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つらつらと書き連ねてしまいましたが、本記事は以上になります。


12月の収載日がいつになるかが、もう間もなく判明しますね。


医療機関の在庫スペースも限界でしょう。
卸のスペースも限界です。


採用品目が増えてしまうことで業務負担がさらに増しますが、 これは止められない流れでしょうから何とか医療業界全体が受け入 れなければいけないことですね。


長い記事になりましたが、 最後までお目を通していただきありがとうございました。
寒暖の差があったここ数日ですが、皆様お身体ご自愛下さい。