激動の医薬品業界について考える

MS歴14年選手の現場観ブログ

10月製品別売上高ランキング

対象:薬剤師の方、医師の方、製薬メーカー方、医薬品卸の方、医薬品業界に興味がある方、就職先が医薬品業界志望の方

※本記事は私が医薬品卸として仕事している中で感じている視点での見解によるものです。

 

データサービス会社エンサイス社が10月単月の国内医療用医薬品の製品別売上高を発表しました。

 

医薬品業界に勤めている者としては非常に興味深いランキングです。

 

学生や一般の方々にもわかりやすくお伝えすると、「医療用医薬品」とは、医師の診療に基づき処方された病院、診療所、調剤薬局で使用された医薬品を指します。

つまり、医師により処方される医薬品です。

この医薬品の薬価(公定価格)ベースでの売上高の集計によって出たランキングというわけです。

 

ランキングは以下の通りです。

1位:アバスチン(抗悪性腫瘍剤)中外製薬

2位:オプジーボ(抗悪性腫瘍剤)小野薬品

3位:マヴィレット(抗ウィルス薬)アッヴィ

4位:リリカ(中枢神経用剤)ファイザー

5位:ネキシウム(消化性潰瘍剤)第一三共

6位:キイトルーダ(抗悪性腫瘍剤)MSD

7位:イグザレルト(血液凝固阻止剤)バイエル

8位:リクシアナ(血液凝固阻止剤)第一三共

9位:タケキャブ(消化性潰瘍剤)武田薬品

10位:エディロール(合成ビタミンD製剤)中外製薬

 

オンコロジー領域である抗悪性腫瘍剤、いわゆる抗ガン剤は存在感がズバ抜けています。

国民の死亡原因1位がガンであることは周知の事実ですから、必然的に処方例数が多く、高額な薬剤であることから、当然の結果です。 

 

そしてプロトンポンプインヒビター(PPI)と呼ばれる消化性潰瘍剤ネキシウムに、タケキャブが追従しています。

用量調整が簡便で処方しやすい、といわれるネキシウムが今までダントツの売上高と言われてきた中で、タケキャブが着々と後につけてきているのがわかります。

医薬品卸は、従来の売上高至上主義のビジネススタイルを脱却し始め、無茶な数字の詰めをしない傾向にあることと、卸各社の9月半期決算明けの10月実績であることを踏まえると、自然の受注による純粋な売上高であると推定します。

それを踏まえると、今後もこの2剤の差は縮んでいく可能性があります。

 

DOACと呼ばれる血液凝固阻止剤イグザレルトリクシアナはさらにその差は肉薄しています。

高額で慢性疾患の薬剤であることから、バイエルと第一三共の屋台骨となっている両剤の競争は激化しています。

接待や、ノベルティグッズなどで差別化は今後さらにできませんので、単純にエビデンスや、ディテール数での競争になります。

医薬品卸も両社のMRさんと共闘し、医師に処方促進活動を繰り広げています。

 

D3製剤であるエディロールも、透析患者さんや、骨粗鬆症患者さんの多くに処方されています。

 

卸のMSの視点で見ると、いずれの薬剤もお得意先で帳合を獲得しているかいないかで、当該施設でのシェアの影響に直結する製品です。

 

また、このランキングを疾患別で見ると、トップ10の中で、3品目以外の7品目は、それぞれ競合品と共にランクインしています。

 

抗悪性腫瘍剤:アバスチン、オプジーボ、キイトルーダ(適応症の違い有)

 

消化性潰瘍剤:ネキシウム、タケキャブ

 

血液凝固阻止剤:イグザレルト、リクシアナ

 

これを見ると、その疾患の患者さんが多いかがわかる、ということと、違う視点から見ると、特に医療費がかけられている疾患、ということもわかりますね。

 

オプジーボは今月より薬価が下げられており、マヴィレットも2月より市場拡大再算定により臨時の薬価改定として25%引き下げられることも決まりました。

 

来年は消費税増税と共に薬価改定が行われる方向で決まっています。

上記の薬剤も大幅な薬価引き下げの対象になるものと考えられます。

 

個人的には、医療費の問題は深刻で、このままでは国民皆保険自体が崩壊してしまう懸念がありますが、良い薬剤を創薬した製薬会社が正当な利益を獲得し、それを原資にさらに画期的な薬剤の開発をする、このサイクルを維持できるようにしていただきたい。

新薬創出加算制度という制度も、その制度により薬価引き下げを阻止できる品目も激減しています。

 

医薬品卸としては、今後薬剤の値付けについて過度な競争による安易な値付けをするのではなく、薬剤の価値に見合った価格決定の為の交渉をしていかなければなりません。

 

しかし、それは購入側からすると、薬価差益の圧縮にも繋がります。

薬価差益は、購入側にとっても重要な利益であり、経営資源であることから、流通側の事情を一方的に押し付けるわけにもいきません。

ただ事実として、製薬メーカーから卸への仕切価は確実に上がっており、アロワンスや割り戻しなどの不透明な利益も、流通改善の一環として是正が求められていることから、安易な値引きができない状況です。

 

そのような環境下でも、製薬側、流通側、購入側のそれぞれが正当な利益を得られるように、努力することが、今後の重要な課題です。

 

お目を通していただきありがとうございました。

 

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また今回もダラダラ書いてしまいました。

就労管理が厳しく、早い時間に会社を出されてしまうので、書く時間ができるのはいいけど、もっと簡潔にまとめられるようにします。

あっ、薬剤の詳しい情報は、薬剤師の方々のブログに大変わかりやすく解説されていますので、ググッてみてください。